さわやかな秋晴れつづくなか吹く風の色合いが重苦しくにび色なのは、多分にささやかれる不況のせいである。世の中が沈んでいる。政治的な迫力のなさ、経済的に弾力のなさが社会の暗い印象に輪をかける。あっちもこっちも不良債権だらけ、これは金融業界だけの意味あいではなく社会機構の中でも見うけられる欠陥的な不良債権である。大手の銀行に不良債権のなんたるかを問えば、経営の上層部がそれであると答えるそうだ。そういうやりきれない不良債権が世間に充満しているから次第に暗くなっていき、元気がなく沈んでいく▼こんなとき破茶目茶でめくら滅法な発想があれば思わぬ力で社会を浮揚させる現象が起きるのではないかと思わぬでもない。これまでの論理や常識にとらわれない底抜けに明るい思いつき、天空を突き破るような奇抜なアイデア、そんな誕生が待たれる。それがどんなものなのか金輪際思いうかばないのは凡夫の悲しさ▼ここのところノーベル賞の受賞者が二人現れ、国民の前でもてはやされている。まことにめでたいことであるが、今の暗闇の景気動向と上昇気流にのせるほどのインパクトには乏しい。そんな高尚な慶事よりも、いままさに死にかかっている魚を蘇生させるような高濃度の強力な即効薬が待ちのぞまれるのである▼それはなんだろうか、金である。ちょっと下賤なひびきをもつけれど中小企業も個人商店も、大企業も銀行も実際に使える金がないからにっちもさっちも行かないのである。帳簿に記入された資産はあっても使える資金がなければ身動きがとれないということになる▼そんなとき頭の片隅で聞こえてくるようにひびく「チャンチキおけさ」の音頭が反復してくるから不思議だ。「月がわびしい露地裏の屋台の酒のほろにがさ 知らぬ同志が小皿たたいてチャンチキおけさおけさ切なややるせなや」昭和33年の流行歌である。戦後の貧しさからようやく抜け出そうな頃で、東京タワーが完成する一寸前。月給が一万三千円ぐらい、アルバイトが四百円で、三百円もあれば屋台で飲んでチャンチキおけさも歌えた時代。明るくもないが暗くもなく、みんな一生懸命働いていた。金も資産もないがなんとかなると四畳半で頑張っていたものだった▼バブル崩壊のあと残ったものは飽食と怠惰と打算などおおよそ日本人として過去には排除されてきた性格のものばかり。アルバイトはフリーターとなって定職を避け自由気ままに自分に生きるという気質。西に旨い話があれば他人を押しのけてまで奪い、東の金になる催しがあれば嘘を承知で馳せ参ずる狡猾さ。ひと様のことは余りやりたくなく「なんで?」と疑問符をつけたがる世の中とはなった▼自棄(やけ)とはいわないがこんなとき「チャンチキおけさ」で小皿叩くのも息抜きの一として貴重な音階をもたらしてくれる。


共同企画 後藤喜好