株価が下がりつづけている。前の日との比較を示す気配は軒並み▽印で投資されているみなさんはさぞ憂鬱であろうと想像する。不肖、天井桟敷に棲む前は百社ほどの株式を銀行に保管していた身分(!)だったので、その心境はわからぬでもない。ここはじっと我慢の塩漬けで反騰を待つ以外にない。株式は持っていることを忘れたころに値上がりしているものだ。百社ほどの持株も新聞を線香花火のように終らせないために、あらかたは印刷代と折込み代に消えてはしまったものだが▼とんと関心がなくなった株式欄であったが「小泉内閣の支持率低下と並行して株価も軒並み安」「眞紀子外相更迭後から急落」などの新聞の見出しで株式欄をのぞいておどろいた。多くの株式は昭和43年ごろの値段にもどってしまっている。43年ごろ株券を買いあさっていたので値段もおぼえている。その例が日立製作所。そのころの株価は千円の大台をこえていて、千二百円まで行くかどうかが仲間うちの話題となっていた。それがいまは八百円割れである。建設株に目を移せば額面割れの銘柄が多いことにおどろく。株価の変動には喜怒哀楽はつきもの。思い出すさえ腹立たしくなる銘柄、してやったりとほくそ笑む銘柄といろいろ。人それぞれに浮沈の歴史がある▼東証一部にTDKがある。三年ほど前は一万七千円の大台を維持していたが、いまは五千円台。リストラなどの新聞報道もあって万感胸に迫るが、このTDKが45年ごろ時価発行増資をやって世間をおどろかせた。額面増資なら五十円であるが、時価よりちょっと安い八百円であった。時価発行のはしりであり、幹事証券は山一、TDKの財務体質は強化され、それからの会社の発展にどれほど寄与したか計り知れない。そして特筆すべきは数期にわたり一割の無償増資をつづけ、持ち券数が倍になるほど株主に還元したことであった。それが一株一万七千円まで高騰した―。山一証券も良い事もやったのである▼それがいまの証券界はどうかだ。株式を公開して高値で投資家から金を集め、のうのうと自腹を肥やし、いつの間にか証券市場から名前が消えている。名前はあるが値下がりしたままのものもある。市場や株主に対する道義的な責任を忘れて資金集めに血まなこになり、マネーゲームにうつつを抜かす。まさにやらずぶったくりだ。一般投資家に還元することを忘れては市場がいきいきするわけはない▼一般社会に目を向けてもこれと似た現象は起きていないかである。自己中心主義は社会からうるおいを奪い、我利我利はいつしか世間からうとんじられて亡者となる。普通の庶民の目は確実に鋭くなっている。どんな商いでも嘘を含んではおしまい。政治の世界もまたしかり▼天井桟敷の顔写真も、もうそろそろ年相応のものにしないと欺くことになる、というわけで8年ぶりに入れ替えます。


共同企画 後藤喜好