市長選にまつわる恥ずかしい思いも忘れられるような季節になった。人の噂も七十五日とはよく言ったものだ▼「はじ」を漢字で書くと恥・羞・辱といくつかあって、その意味合いもいろいろと変化してくる。気恥ずかしいとか羞恥心とかは、ちょっと顔を赤らめて恥じらう風情もあって奥ゆかしいが、恥さらしとか恥知らずなどの表現となると書く方も恥ずかしくなってくる。恥とは人間が生まれて生活している限り忘れてはならない、知っていなければならない最低限の徳目ということであろう▼辱という字は辱しめると読めるようにどこか攻撃的であって相手をきずつけるようで感じが悪い。侮辱・屈辱・雪辱など相手をおもいっきり打ちのめすようで体育会系と言えようか。屈辱をはらす、雪辱を期すなど相手にうち勝って前に受けた恥をそそぐなどいささかおだやかではない。恥は内面的で自動的な意味にとれ、辱は外面的で他動的な意味合いをもつ。いずれにしても恥辱は他に与えてはならないし、また受けたくもない。上に立つ者すべからく心すべきことである▼自分に関係のない他人の恥や失敗はときには興味の対象であったり哄笑を誘う恰好のストレス解消剤だったりはするが、これが天下の総理や首長のしでかしたものとなると事は別である。「えひめ丸」事件のときの森前総理のゴルフ、そしてゴルフ会員権借用の疑惑など庶民感覚から推してオカシイと感じた疑念に対し、明確な説明がなく弁明だけでうやむやにしてしまう無神経さに「あんな総理じゃダメだ、恥しい」となって人気が凋落し、首をすげ替えられる破目になった。雪印乳業事件の社長の態度もしかり。一般の人たちが持つ常識、社会が持つ眼というものをないがしろにしたりすると大変なしっぺ返しが待っている。それが今の世の中なのだ。誰に対しても堂々と説明できる筋書きと透明性がないと社会的な制裁を受けることになる▼筋論クレーマーという新語をある研修会の講演で聞いた。企業や団体に対して、この点はおかしいのではないかと筋道を立ててものを申してくる(クレーム)一般の人々のことで最初の対応に誠意がなかったりすると、あとで大変な社会問題にまで発展するという。筋道を立てて質してくる問題には筋道を立てた明確な解答をする。この人たちはお金や物が目的ではないから、あくまでも責任のある対応が要求されるということであった。これは企業や団体だけでなく行政側にも当てはまる問題であろう。賢明な読者の方は天井桟敷が何を言いたいのかご賢察いただけたのでは▼わが家の筋論クレーマーは四十年以上も起臥を共にしてきたが、その間多くの疑義事項をうやむやにされてきたので、今では諦観者となって相手を冷ややかに見ている。対象者は私人なので社会的制裁はないが、家庭内での存在価値が著しく低くなっていることは確かだ。


共同企画 後藤喜好