「気を付けてね」「はーい」。雨の日の商店街で、そんなやりとりが聞こえる。声の主は雨合羽を着て走っていた小学生の女の子と八百屋さんだった。ここは西武多摩湖線一橋学園駅北口の目の前に位置する「学園一番街商店街」だ。どこかのどかな空気の流れるこの商店街を、今回は取材することにした。
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学園都市として発展
東西に広い小平市の西部に位置するこの地域は、大正の終わり頃から昭和にかけて開発された、都内で草分けの宅地開発分譲地だ。駅名にもなっている一橋大学がこの地に来たのは、昭和8年のこと。平成8年に議義の中心が国立キャンパスになり、一橋大学の学生は移動してしまったが、かつての学園都市としてのおしゃれな雰囲気は今も残っている。
そんな中、庶民的な雰囲気を色濃く残しているのが、学園一番街商店会だ。同会の発足は昭和42年。通りには寝具、紳士服、やきとりや和菓子など物品販売の店が数多く軒を連ねている。
▲昭和39年頃の写真。上の写真とほぼ同じ位置。写真左には廃駅となった「小平学園駅」 写真提供・小平市喜平図書館
▲藤山稔さん(左)と奥さんと息子さん
▲七夕飾りの下で行われるサンバに多くの人が集まる
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老舗の八百屋さんの意外な創業秘話
商店街に入ると、最初に耳に入ってくるのが、「はい、いらっしゃーい!」という八百屋さんの威勢の良い声。こちらのお店は昭和24年創業と学園一番街でも最も古くからあるお店の一つ。2代目の藤山稔さん(藤山食品・70歳)に創業当時の話を聞いてみると面白い話を聞かせてくれた。創業者の稔さんの父親は、かつて静岡で建設業を営んでいた。その際に仕事の依頼を受け、今のお店の隣りに肉屋さんを建てたという。その時、「隣りに店がないから、何か商売をやってくれないか?」と肉屋さんから頼まれ、「肉と一緒に食べるのは野菜だろうってことで親父が始めた」のが、この八百屋さんだという。そんな奇妙な巡り合わせでスタートした商売も稔さんが跡を継ぎ、現在はすでに3代目の息子さんへとバトンタッチされている。2代目は隠居かと思いきや、今も元気いっぱいに現役として店に立ち、張りのある声を商店街に響かせている。
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夏を彩る七夕飾りとサンバ
去る7月5日、商店街の夏の名物・七夕飾りとサンバが行われた。当日は狭い通りに約8、000人の見物人が訪れ、会場は熱気に包まれた。現在はすっかり地域に定着したこのイベントは今年で17年目。当初は七夕飾りだけだったが、3年目から商店街の役員が「自分たちがビールを飲みながら楽しめる祭りにしよう」と学生のサンバ隊を呼び、積極的に告知を行った。初めは揃いの衣装もなかったサンバ隊だが、年々派手になり、それに伴い見物人の数も増えていった。この現状について、商店街会長の大沢順一さん(大沢燃料店・52歳)は「ビールが飲めたのは最初だけで、今では一滴も飲まないで人員整理。当初の目的と違うよ」と笑う。年々、見物人は収集がつかないほど増加し、サンバをやめることも頭をよぎるという。しかし、楽しみにしてくれる人々の思いに応え、一年、また一年と学園一番街のサンバは続いていく。
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世間話をしたくなる商店街
取材を終えて、改めて振り返ってみると印象に残っているのは、意外にも道行く人同士で交わされる会話の多さだった。面識がないと思われる人同士でも「今日はお出かけですか?」「雨が止まないですね」などの会話が聞こえてくる。そうした世間話を生み出しているのは、活気がありながら、どこかのんびりとした雰囲気を持つ、この商店街の力なのだろう。そして、それは今の時代にとって、すごく貴重な場所のように思えた。
本文・撮影/鈴木広介
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